「いつものんびりしているように見えて、慶兄のやる事は妙に早いから油断ならねえ」
「そんな褒めてンだか貶してンだか 解りにくい言い方はやめとくれ」
「可哀想に、下じゃお坊さん達が軽い地獄絵図みたいになってましたよ。また仕事をしながら変な唄でもやったんでしょう。慶兄は憶えてない唄を平気で歌うから」
「さて。ながらの事なンざ、もう忘れちまったヨ」
百助と軽口を言い合いながら、慶一郎は大工道具を箱の中に片付けた。ああ、やれやれと大きく伸びをして、ゴロンと屋根の上で寝転がる。
「それより百さん。そんなにお暇なら、こっからの景色でも一つどうだい」
「別に暇だから手伝いに来たってわけじゃないんですがね……」
百助は危なげない歩みで慶一郎に近づくと、同じ姿勢で横になった。景色よりも先に、春の日差しの暖かさが身に沁みる。
「ああ、布団になった気分だ」
「違いねえ。今日はぽかぽかして、本当にいい陽気さね」
慶一郎は言葉通りの上機嫌で「ほら、見ろい」と眼前の光景を指差した。
「絶景かな、絶景かな。春の眺めは値千金とは、ちいせえ、ちいせえ。この五右衛門には値万両なり──っとくらあ」
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「あれは同じ春でも宵の口でしょう。……しかし、確かにこりゃ、いい眺めだ」
禅寺の屋根からは、長崎の市街を一望に見下ろして、その先の長崎湾までを見通す事ができた。目立つ建物は、大名家の蔵屋敷、富裕な商家、西御役所とオランダ商館のある出島──その二つを結ぶ一筋の橋を警護している、武者の形をした巨人。
市街と出島を繋ぐ唯一の橋の左右では、幕府の『鬼道傀儡』が常に番をしている。
──人類の誕生以前、この世界の太古の時代には、龍と巨人がいた。
龍と巨人は神通力を持ち、互いに天地をも砕く勢いで、世界の覇権を争っていたといわれている。だが、あまりにも古い時代の出来事なので誰にも詳細は解らないが、両者はなぜかほぼ同時期に、共倒れしたかのように滅びてしまった。
──しかし、龍と巨人の死骸には死後も霊力が宿り続け、腐る事がなかった。
巨人は魂を失っていて、もはや自分から動く意志の力を持っていないが、それでも肉体だけが滅びず生き続けていた。
そんな巨人の生ける骸を『鬼神(ものかみ)』という。
鬼道傀儡は、その鬼神から作り出されるコピーだ。鬼神の肉体は太古の、神とも魔ともつかない謎のモノで出来ているが、鬼道傀儡は牛や馬の骨肉など現世の物質で肉体を再現しているため、性能では大きく見劣りする。長崎奉行所の鬼道傀儡は、ほっそりとした人
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