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[4・祟れる鬼神]

 海の娘を連れて慶一郎は無事に久賀組の屋敷まで戻り、そこで霧子達とも合流した。
 これで事件は、ほぼ解決したように思える。霊泉はすっかり信用を失くし、彼の広めた物騒な教えも今ではただの冗談話になっている。海坊主の再来に対する不安はまだ残っているが、町中に溢れていた対立と緊張の空気は嘘のように解消されていた。
 しかし、一日ぶりに久賀組の屋敷に帰ってきた慶一郎は、ひどく多忙になった。
 まずは仁兵衛や吉次や百助に、昨夜からずっと連絡もなしに戻れなかった事を釈明しなければならなかったが、それはかなり長い話になってしまうため、そこそこの挨拶でごまかしておくしかなかった。さらに霧子ら『公儀隠密』についても説明と紹介の必要があったが、これも適当に済ませておくしかなかった。
 慶一郎は他の何よりも、救出した海の娘の世話を優先しなければならなかった。
 海坊主対策の要であると推測されているこの娘は、助けてくれた慶一郎や霧子ら女性陣にはよく懐いたが、兵庫のような他の陸の男には警戒心を剥き出しにしていた。
 体を洗ったり服を見立てるのは霧子や千春に任せるが、娘は慶一郎の姿が近くにないと落ち着かない様子で、五分も放っておくと泣き出してしまう。仕方なく慶一郎は付きっきりで世話をする事にな

り、夕食も一緒にとる事になった。
 食事の前に慶一郎は、料理当番を快く引き受けてくれた霧子に訊ねてみた。
「この子は多分、生魚が好物じゃないかと思うんだが、霧子さんはどう思う?」
「両方用意しましょう。焼いたのと、お刺身と」
 霧子らしい明快な答えが、慶一郎にはなんだか面白かった。
 霧子が用意してくれた料理は、慶一郎向けに味の付いたものと、海の娘向けに味付けのないものに分かれていた。味付けにまで配慮が及ばなかった慶一郎は、こういうところでも霧子に一歩先を行かれるのかと、微妙な気分を味わった。
 霊泉は食費を惜しんでいたのだろう。娘の食欲はずいぶんと旺盛で、目を輝かせながら次々と食卓の料理に手を伸ばし、夢中になって食べていた。慶一郎の予想通り、娘はお米や野菜の類にはまったく興味を示さず、食べ物として認識できていないようだった。
 最初のうちは生魚を好んで食べていたが、間違えて焼き魚にも手をつけると味に驚いたような表情を浮かべて、それからは珍しそうに焼き魚も食べるようになった。
「美味しそうに食べてるねえ。可愛いものだ」
「そうですね。……でも、お行儀としては最低ですが」
 手づかみで食べている娘の無作法に、霧子は悩ましげな表情を浮かべている。
 ふと慶一郎は、おままごとをしているような気分になった。

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