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「……」
今度こそ、慶一郎は本当に反応に困ってしまった。
どう返事をしたものか解らないが、そもそも千春はなぜこんな夜更けにわざわざやってきてまで、こんな話題を言い出したのか。ここは黙って話の先を待つ事にした。
「半妖の私は、長い間ひとりぼっちで、山奥に隠れて生きてきました。……そんな私を見つけ出して、孤独から救ってくれた人が、きりこ姉さまなんです」
霧子の事を語る千春の表情は、それまでの陰気なものから打って変わって、本当に誇らしげな、活き活きとしたものになっていた。
千春は、まるで神様みたいに霧子の事を慕っている。慶一郎はそこまで誰かを好きになった事がなく、なんだか眩しいものを見ているような気がした。
「姉さまは私に、読み書きを教えてくれて、礼儀作法を教えてくれて、歌う事や踊る事を教えてくれました。きりこ姉さまは、私に人間らしい生き方を与えてくれた──いえ、私を人間にしてくれました」
普段は内気で引っ込み思案な千春だが、感情を表現する時は全身で訴えるように、まっすぐぶつけてくる。気持ちのいい事だと慶一郎は思った。
「将軍の血を引く慶さんと、半妖混血の私では、まったく立場が違いますが……知らない世界からの誘いを恐れる気持ちや、自分自身への違和感という点では、少しは似ているところもあるのではない
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かと、勝手ですが思っています」
「いや、勝手じゃないよ。その通りだ」
ついさっきまで慶一郎が悩んでいた事を、千春は言い当ててみせた。
「……どうか、きりこ姉さまを信じてください。姉さまの言う通りにするのが、いつでも一番いい結果に繋がるんです。
言いなりになれという意味じゃありません。ただ、きりこ姉さまはいつでも、みんなが幸せになれる最良の方法を考えている人です。それを慶さんにも、解ってほしくて」
言いたい事を全て言い終えた千春は、ほっと溜め息をこぼした。こんなにたくさん話すのは、滅多にない事なのだろう。ひどく気疲れしているようだった。
一方、慶一郎は千春のひたむきな姿に、軽い感動を覚えていた。
「うん。……千春ちゃんの言いたい事は、よく解ったよ。どんな結論を出すにせよ、霧子さんの意見にちゃんと耳を傾けて、参考にしたものにする」
慶一郎の言葉に、千春はとても嬉しそうな顔をして、深々と一礼した。
「すみません……生意気な事を、たくさん言ってしまって」
「いやいや、とんでもない。なんていうか──その、千春ちゃんの考えをきちんと聴けて良かったよ。本当にありがとう。おかげで少しは度胸が据わってきたよ」
「そんな……」
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