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経立の魔物は人と似た欲望を持つようになり、人の娘を誘拐して強姦したり、飽きたら面白半分に残酷な方法で殺したりする──と、霧子は解説した。
「性質の悪い……それで、強いのか?」
「ええ。元が野生の猿ですから。並の人間では猟銃でもないと太刀打ちできません」
「……厄介だな」
久賀組の屋敷には、武器としても使える火消し道具ならたくさんあるものの、銃なんて一丁もない。
「しかしこりゃあ、かなりやばいですよ、慶兄」
「援軍の当てはないのか、霧子さん。奉行所とか隠密仲間とかの」
いつものように百助は思ったままの事を言い、吉次が的確な質問をする。長崎御番の鍋島家が除外されているのは、あくまでその任務が長崎の防衛であるためだ。町民のいざこざを解決する治安維持活動は、奉行所の管轄になっている。
「残念ながら、長崎にいる私の仲間は、ここにいる二人だけです。それから、奉行所には一応、今回の件を報告してありますが……」
言いにくそうな霧子の代わりに、横から兵庫が口を出した。
「期待はできぬだろう。幕府の役人は事なかれ主義の無能揃いだからな。そうでなくても町民の前で霊泉があんな扇動をした後では、手出しが難しくなっているが」
これが武士の心胆というものなのか、兵庫は仁兵衛親分と同じくらい、ひょっとしたらそれ以上に落ち着いていた。
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「それにしても拙者には解せないのだが、なぜ霊泉はあれだけの戦力を持ちながら一思いに攻めず、余計な危険性を高めるこのような時間の猶予を与えたのだろう」
「最大の理由は、乙姫様を殺さず、怪我もさせずに捕らえるためでしょう。そのためには傀儡で屋敷を潰すわけにはいかないし、経立の猿にも細かい配慮はあまり期待できませんから。それに加えて、圧倒的な戦力が生んだ傲慢な油断もあるでしょうね」
兵庫への回答を最後に、場を重苦しい沈黙が占めた。
空気の重さに耐えかねた慶一郎はとにかく話を動かそうと思って、我ながら無茶な要求を霧子にぶつけてみた。
「なあ霧子さん、いつでも相手の一手先を読んでいるのがお前さんじゃないか。そりゃ霊泉があんなものを持ち出したのはいくらなんでも予想外だろうが、何か似たような状況に備えた策は用意してないのかい?」
「ありますよ、二つほど。この私に策が尽きる事などありません」
相変わらず、あっさりと霧子は答える。慶一郎は腹が立つような呆れるような気分になった。いつも冷静な吉次や仁兵衛親分までが、呆気に取られた表情を浮かべている。
「なんだそりゃこら! ならさっさと言えよ!」
百助は素直に怒っていたが、霧子は少しも動じない。
「しかし、策の一つは私にも予測のできない要素が多いのです。果たして相手がいつ来てくれるか。首尾よく来てくれたとしても、思い通りに動いてくれるかどうか」
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